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深まる秋の夜。豊能のエマコーヒー(中西商店)さんで開催されたドキュメンタリー映画の上映会に参加してきました。
ドキュメンタリー映画『ノマディックのこと 大谷さんちの4か月』は、能勢町野間でお弁当やお惣菜のテイクアウト・デリバリーを専門とする「ノマディック」を営む大谷さん一家が主人公です。2021年6月末に「ノマディック」を閉店し、10月末に本と食のあり合う場所『TOGO BOOKS nomadik』を開店するまでの4か月間の記録です。
「ノマディック」さんについては知人から聞いたことがあったのですが、閉店して新たな店舗を始められたことは知りませんでした……。
そして、長年豊能町で日用品店「中西商店」を営んできた2階にクリエイター向けコワーキングスペースやギャラリースペースを開設し、さまざまなクリエイターによって面白いことが生まれているエマコーヒー。その店主・中西信一朗さんが、今度はドキュメンタリーを企画・製作されたということにも興味を持ち、上映会に参加しました。
ドキュメンタリー映画の撮影・編集・監督は北中康雅さん。ドキュメンタリー映画監督の原一男さんに師事されたことがあり、今回初めての映画撮影をされたとか。
エマコーヒーの中庭で開催される上映会
上映会の会場は建物の真ん中にある中庭(屋根を透明にした吹き抜けで、土の地面の「中庭」的な空間)。
既に何人かのお客さんがコーヒーを手に思い思いの席に座り(吹き抜け空間なので、2階からも鑑賞可能)、上映の時間を待っていました。お客さんは、女性のグループやカップル、ファミリーなど様々。
私も偶然知り合いの方を見つけて、その近くに陣取り、あったかいコーヒーを飲みながら、サンドウィッチをかじります。
11月末の夜間ということで、店の外は結構冷え込んでいましたが、会場内はストーブとお客さんのドキュメンタリーへの期待の高まりと温かな空気で満たされていました。
いよいよ上映会がスタート
私が参加した日は、残念ながら監督の北中さんはいらっしゃいませんでした。ただ、映画の音楽を担当されたハンドパン奏者のSHUさんが参加されていました。
中西さんのあいさつのなかで、北中監督が上映会開催のギリギリまで編集作業に取り組んでいたことを聞き、監督のこの作品への並々ならない熱い想いを感じました。
そして、上映が始まります。
懐かしさと何かにチャレンジしたくなるエネルギーをもらえる作品
あっという間の2時間でした。
寒い夜に温かい中庭で観るドキュメンタリー映画『ノマディックのこと 大谷さんちの4か月』は、親戚と一緒にホームビデオを観ているような懐かしさと、何かに挑戦したくなるエネルギーをもらえる「作品」でした。
ドキュメンタリー映画の仔細をここに書くとネタバレ(ドキュメンタリーでネタバレという言葉が適切かわかりませんが……)になるので、私が感じたことを箇条書きで少しだけ整理します。
〇魅力あふれる大谷さんご夫婦
・能勢町出身の奥さんは「シンプルに、ここ(能勢)で子育てがしたい」「自分がしてもらってきたことを、子どもに再現してあげたい」という想いから能勢で暮らす。
・ここ(能勢)にいることで、ふるさとを相対化して、懐かしいものとしてみることができるという四国出身のご主人。能勢で暮らす理由は「能勢生まれの妻の人間性」。
・ご主人の夢である本屋を軸とした店舗の開業について、「能勢好きの私を選んでくれて、能勢で一緒に子育てをしてくれるだけで私は御の字。今度は彼のめざす空間づくりを一緒にしていきたい。」と言う奥さん。
・日常生活での二人の会話、やりとり。個々のインタビューを通じて、お互いの人間性に惹かれ、お互いの想いを尊重しながら、ごくごく自然に助け合う大谷さん夫妻の姿に、温かな気持ちになりました。
・お二人がお互いの夢に向かって真摯に挑戦していくプロセスをみて、自分も挑戦したいというエネルギーをもらえました。
〇大谷さん一家に関わる地域の人々
・「ノマディック」のお客さんたち、農家のご夫婦をはじめとする仲間たち、大谷さんの子どもさんが通う里山共同保育「きららの森の家」の先生。そして、奥さんのお姉さん、お父さん、お母さん。みなさんのインタビューから、大谷さん一家への想い、能勢で暮らしていくことの想いをじんわりと感じました。
〇みんなを包み込む能勢の自然
・スクリーンに映し出される能勢の情景は温かく、懐かしく、美しいです。出演した方の「すべてのものに命があることを感じさせる」「何もないのに豊かで満たされる」という言葉が心に残りました。
・家への帰り道で夕焼けを眺める娘さんの姿は、子どもの頃に同じように夕焼けを眺めた奥さんの姿と重なり、奥さんが言っていた「自分がしてもらってきたことを、子どもに再現してあげたい」という想いが実現しているんだなぁと思いました。
・自然はやさしいだけではないということはわかっているのに、能勢で暮らしていく人々を包み込む能勢の自然に、圧倒的な「やさしさ」とともに「豊かさ」を感じました。
あっという間の90分、心が満たされ、この土地の魅力に気づくことができた90分
約90分の映画が終わり、音楽を担当したSHUさんによるハンドパンの生演奏!
映画の中で流れた1曲を演奏してくれたのですが、ハンドパンの音色が、映画で観た能勢の暮らし、能勢の情景と自然に重なり、何とも言えない至福の時間。以前もSHUさんのハンドパンの演奏を聴いたのですが、いつも、心が満たされる不思議な感覚になります。
そして最後の中西さんのあいさつ。このドキュメンタリー映画はエマコーヒー(中西商店)に集まった人たちだけで創り上げたものであり、その映画の上映会をエマコーヒーで開催できたことが感慨深い。そして、映画を観に来られた方が何か受け取ってもらえればとおっしゃっていました。
この映画を観て、色々なことを感じました。なかでも、この土地のこれまでの歴史に敬意を払いつつ、新しいスタイルを創り上げていくノマディックの大谷さん一家、エマコーヒーの中西さんや仲間のみなさんが、この土地の「良さ」であり、最大の「魅力」なのだと思いました。
そして、新しい店舗で営業を始めるまでの4カ月間にわたって撮影された監督の北中さん。普段のカメラマンの仕事をこなしながら毎日のように能勢を訪れ、上映前日もほぼ徹夜で仕上げたそうです。残念ながら私はお会いすることはできませんでしたが、監督の人柄と熱意を映像から想像することができました。SHUさんのハンドパンの演奏がマッチして、里山の魅力、この土地に住む人の魅力をふんだんに味わえる素晴らしい作品となり、上映後にお客さんから拍手喝采だったこともとても印象深かったです。
後日、大谷さんの新しいお店『TOGO BOOKS nomadik』に娘と二人でお邪魔しました。映画を観て想像していた通り、大谷さん夫妻の想いがつまった居心地の良い空間でした。
『TOGO BOOKS nomadik』
プロフィール
北中康雅(監督・撮影担当)
川西市出身。大学卒業後、ドキュメンタリー映画監督・原一男氏に師事。
企業VPやWebムービー、ブライダル映像などの演出・撮影・編集を担当する傍らで、今回のドキュメンタリー映画の撮影を機に、人に寄り添った映像、地域に密着した映像の撮影・編集を行っている。
取材日・2021/11/20
文/写真・北川淳也