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11月20日、初谷渓谷憩いの場(タマゴとキバ&巨大原人の足跡)で、午前7時頃より夕方の5時半ごろまで、TOMOI R&D代表友井隆之さん主催の「一日だけの蜃気楼美術館」が行われました。友井さんはこのモニュメントが完成した時から、このような会を開催しようと考えられていたそうです。マイナスイオンが多くある自然の中で雰囲気が出る、たき火が燃え続ける中で各自が語り合えば良かったのですが、初谷渓谷は火を焚くのが中止になっているのが残念でした。気温15℃、野鳥の飛来も少なくなり、落葉樹は赤や黄色に徐々に紅葉が始まって来ていました。この憩いの場は前々回の「のせでんアートライン2017」開催時に吉川自治会の企画、管理・運営のもと、大阪ミュージアム基金の支援、池田土木事務所地域支援課(以降、池田土木)・豊能町・能勢電鉄の協力、鈴木貴博さんの立案、友井隆之さんとその仲間、このプロジェクトに賛同するボランティア(筆者もそのうちの一人です)により制作されました。当時の関係者、また、初めて来られた芸術家の皆さんが20数名が三々五々集まり、まるで同窓会のように懐かしい雰囲気で、時間の経つのも忘れ、普通の美術館では大声では喋れないのですが、森の中のため、あちらこちらでグループに分かれて大声で会話が弾んでいました。時々通るハイカーは不思議な顔で通り過ぎていきました。
大阪みどりのトラスト協会の飯野さんが、参加者に「今、自分の思っている事」を色紙に書きましょうと呼びかけていました。
「タマゴとキバ」「足跡」の制作
初谷渓谷憩いの場「キバと卵&足跡」(以降、憩いの場)は、以前より吉川自治会がまちづくり計画を検討されていた中で初谷渓谷の整備の必要性があると考えられていて、2017年の「のせでんアートライン」が開催されていた時に、補助金の話が持ち上がり、大阪ミュージアム基金からの支援を受けて製作されました。
初谷渓谷は、昭和30年代まで「炭焼き」で生計を立てていて里山として機能しており、樹木、それに共生する生物などの出現で生物多様性が保たれていましたが、ガス、石油の燃料革命により、里山としての循環システムが一気に崩壊しました。このまま放置しておくと荒れた山になって行きますので、憩いの場は初谷渓谷の貴重な希少植物等を保護するため、また、観光資源として吉川地区、および豊能町にとって有意義なプロジェクトとなりました。現在では、四季を通じて妙見山ハイカー、ピクニック、キャンプ、植物、昆虫、野鳥鑑賞をされる来訪者が増加傾向にあります。
平成29年8月初旬に製作が決定し、何度か設置場所を調査し、9月中旬に山林の持ち主を確認し、現地立会いしていただき、無償貸与及び間伐、掘削などに関して快諾を得ました。
初谷渓谷入り口にある「田中邸」で計画会議を幾度も開催し、その中で、この地域にのせでんアートラインを通じて実績がある作家の鈴木貴博が担当されることが決定しました。自分はなぜ呼ばれたのか、何を求められているかわからないまま、会議を重ねているうちに理解いただくところに至りました。この森にインパクトを与えるために、巨大なものが必要で、過酷な条件の中、50年先まで見据えた資材で構築できるものを考えていただきました。テーマは「我々はどこから来て、どこに向かっているのか」「あしあと」様々なものが時代と共に変化し続けるこの世界に、人間が存在したという痕跡「あしあと」を残すというものです。
地球には様々なものが生まれ、繫栄し、衰退していったという歴史があります。「タマゴ」と「キバ」は繰り返される「生」と「死」の象徴を表現しています。
右より友井隆之氏、鈴木貴博氏、筆者
平成29年8月計画時より、平成30年3月末まで工事期間7ヶ月をかけて完成しました。当時の吉川自治会会長の向井氏をはじめ、自治会員の皆さま、なでしこ会、池田土木事務所、能勢電鉄、大学生ボランティア、友井工芸(現TOMOI R&D)、藤江さん、藤澤さん、その他有志の皆さま、制作にかかわっていただいた方は、延べ人数で264名。皆さんの協力のおかげで完成することが出来ました。
「足跡」においては、最初に重機で掘削しただけで、あとは、スコップ、ツル、バール等を使用した手作り。石は柔らかい山石を使わず、硬い川にある石を使用し、寒い雪の中で何度もやり直しながら、鈴木さんの指導のもと、石積み、穴掘り、大工仕事の上手な人の協力により 完成しました。
お越しになられていたアーティストの方々のご紹介
鈴木貴博
2001年:”IKIRO”クローラ・ミュラー美術館/オッテルロー(オランダ)出展、2006年:クンストラーハウス・ベタコン/ベルリン(ドイツ)にて一年間の作品制作と展示。その他、世界各国にて作品を発表している。
「生きろプロジェクト」公式ホームページhttp://ikiro.net
この地域の作品として「のせでんアートライン2013」において「妙見の森」で能勢電車の百年前の駅風景を調べ、「北極星入口駅」をもとに制作。仏教でいう北辰妙見菩薩に対する信仰を言うが、その原像は、道教における星辰信仰、特に北極星、北斗七星に対する信仰をいう。能勢妙見山も北辰妙見菩薩を祀られています。次の列車はいつ来るか分らないが、この駅はずっとあり続ける。完成後も長期にわたり好評で、いまなお訪れる人は多い。
友井隆之
2002年より独自の美術活動を始める。金属を得意とし、その可能性を求めて現代美術だけでなく舞台や映画、古典芸能など多種多様なジャンルと関わり、国内外を問わず美術活動をしている。個展はこれまでに26回をかぞえる。また、現場芸術集団「空気」やクリエター集団「ATWAS」のメンバーとしてアートパフォーマンスを行ったり、劇団「維新派」や映画監督 の河瀨直美さん などの作品の美術を担当したり、その活動は多岐にわたり活躍されています。
2017年のアートラインの時に妙見の森にブランコを作りました。ブランコは妙見宮の本殿に向いている。
ヨタ(Yotta)
大阪生まれ。2015年、2017年のアートラインに参加され、大変面白い作品を発表されていました。
今回のために、坂出市(香川県)から参加していただきました。2015年には、大阪におられましたが、その後、ここ吉川で作られた「ねぶたのクジラ」を石巻市に持って行かれ、暫くは石巻市に住んでおられたが、3年前から坂出市におられます。彼の作品造りのモットーは、色々な人と付き合いその中から情報を得て、作品造りに活かすらしいです。
2015アートラインの作品
元吉川中学校(現オイスカー使用)の体育館跡で、10mぐらいの「大こけし」の展示。
2017アートラインの作品
一番上部にあるのが、ねぶた祭り用「クジラ」このまま置いて欲しかったのですが、石巻市に運んでいかれました。
岡野ひろみ
大阪市出身。空気、時間を「なぞる」をテーマに作品を制作。
お父さんが織物工場をしておられた関係で、倉庫にあった表面がストライプになっている織物で、一見シンプルな作品であるが、森の中で初谷の溪谷の水と非常にマッチして、何か癒されるように、オオムラサキを始め、カブトムシ、オオルリ、サンコウチョウ、サワガニなどの多くの生物が集まって来てくれそうな作品の様に感じられました。
今回参加できなかった方もいますが、いろいろな人たちの想いで、4年前にこのモニュメントが出来ました。私も当時を思い出しますと多々苦労もありましたが、いろいろなすごい方々に出会え、特に芸術家の人達に出会えたことは、私の人生では初めての経験で、多くの勉強と良い経験をさせていただき、感謝しています。また、その人たちのおかげでプロジェクトが出来上がったことは感無量でした。
豊能町に来て50数年経ちますが、この初谷渓谷の自然が好きで、来た当初から魅力を感じていました。今では四季を通じて年間30数回は行き、来訪者との会話を楽しみ、動植物の生態系を観察しています。初谷渓谷の今後は、今から38年前(1958)に大阪市立自然史博物館が発行された「北摂の自然」を読みますと、当時と比べて多くの生物が減少傾向にあり、特に蝶々類は絶滅種もあります。その原因は、植物にあるように思いますが、スギ、ヒノキの木の下には植物が日陰になるため、植物が育ちません。初谷渓谷には420種類の植物があると言われています。まだまだ、希少動植物が存在していると思いますので、今後は地元の人はじめ、周りの住民の方々、来訪者が一体となって、地元の財産であり、また、豊能町の財産でもあるこの貴重な自然を、将来に残していかなければなりません。
一度荒廃すると元に戻すのは大変難しいと言われております。人間が携わらなければ維持は難しいと思いますので、今後はルール化して守っていく必要があると思います。関係する機関、人々のご協力をお願いします。
最後に、この様な楽しい企画を作っていただきました友井隆之さんに御礼申し上げます。
ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
取材日・2021年11月20日(土)
文/写真/取材・44ときわ