招聘作家藤井 達矢

営みの森、辺界の尾根 - Mt. Oya -

営みの森、辺界の尾根 - Mt. Oya -

会  場
日生中央サピエ(猪名川町)
開場日時
日生中央サピエの営業日に準ずる
開場時間:7:30-21:00

標高753mの大野山(おおやさん)は猪名川の源流とされ、阪神地域最高峰。古文書から、かつて霊地多紀連山を背景にした山岳信仰の場であったとも考えられ、その麓には山とともに生きる人々の暮らしが。里山は、自然と人の暮らしが重なるゆるやかな境界領域。自然の営みと人の営みが重なり合う場であって、飼いならされた自然でも野生の自然でもない、共生の空間。都市に生きる者も日々の暮らしの中で、森の、里山の恵みを享受する。

 

豊かな恵みをもたらす山、そのなだらかな稜線は美しい。しかしそこは辺界の地であり、摂津国川辺郡柏原村(猪名川町)そして有馬郡小柿村(三田市)と丹波国多紀郡後川村(丹波篠山市)の村境争い、摂津国と丹波国の国境争いの跡が遺される。1699年(元禄12年)奉行所の裁定により「界」と刻まれた岩(国界石)は1~35番まで。

 

しかし今もなお世界中で止まぬ紛争。互いを認め合わずヘイト。諸々…

仏教用語に「円融」とある。それぞれの事物が各々を保ちながらも一体となって融和している様をいう。1807年(文化4年)に猪名川に滞在し多くの仏像を遺した遊行僧木喰上人も「まるまると まるめまるめよ わが心 まん丸丸く 丸くまんまる」という和歌を詠んでいる。我々は満たされた日常にあって、その丸くすべてを包含しつながる「円」を忘れていないか。しかしコロナ禍にあって、その逆境の中でそれぞれが何をなすべきか真剣に考え始めてもいる。未だに先は見えぬが。

 

現在はキャンプ場「大野アルプスランド」、猪名川天文台、恋人の聖地など、自動車で気軽に到達できるレジャーの山として知られる最高峰。猪名川の人々に愛される大野山。もはや負の記憶は昔のこととして記録に残るのみだが、このレコードを今、正の文脈で再生できないかと考えた。そのためにはまず、大野山が大野山たる地から一旦離れる必要がある。大野山の構成要素を正負ともに抽出し、それを都市空間において再構成する。その場として、能勢電鉄日生中央駅前にあるショッピングモール「サピエ」の空き店舗を選んだ。元々カフェだったそこは、ホワイトキューブ以上に空虚だ。都市の営みがもぬけの殻なのだから、0でなくマイナスの空間といえる。ここでノイズキャンセリング機能付きのヘッドフォンをイメージして欲しい。不快な騒音などを打ち消す正負反対の波長を発生させることで、音楽のみが聞こえるようになるという。里山にある豊かな共生の空間、しかしそれは尾根にある辺界では争いを生んだ。それでも森の木々は人間の営みを見守ってきた。日月の光、星の光、空に最も近い頂。吹き渡る風。猪名川源流の清水。そしてレジャーの山。これらの要素を抽出し、サピエで良い塩梅でブレンドすれば、円融の様を創出できるのではないか。

 

主要なモチーフとして、樹木のイメージ。アイヌの「イナウ」や彼岸に供える「削り花」に倣って祝箸を一本一本削る。そもそも祝箸は両端が細くなっており、「神人共食」として下端は人間が、上端は神様が使う特別なもの。この箸を素材とすることで、数多の事象が接続する様を表す。大野山の樹木をこの箸で無数に作り、営みの森を再現。

 

木々の合間から漏れる光は、LED電球が発する。木々を照らし里山を照らし町を照らすこの光は、果たして希望の光なのか?光があれば必ず影がある。周囲に映る木々の影、我々はそこに何を見出すべきか… 我々が考え込んでいる間もずっと、その麓で走る電車は、「円」を描き続ける。

 

国界石のイメージ。辺界にある大野山の岩を巡り、石ころを採取。これを用いて苔テラリウムを制作し、辺界の尾根(村境・国境)を再現。

 

さらにネット回線を通してオンタイムの大野山を映像で接続。そこに動く人影が、ゆるやかに溶け合う境界領域にあって円融を完成させる要素となるのだろうか。当然このインスタレーションに入り込んだ来場者も、自らが円融のつなぎ手として重要な役割を担うことになる。

 

サピエで山に分け入り、彷徨いながら、円融の刹那に遭遇できることを祈ります。

PROFILE

藤井達矢

藤井達矢

猪名川美術協会会員
猪名川木喰会会員
2019「さかいモノがたり」堺/大阪
2017「宝塚現代美術てん・てん」宝塚/兵庫
2016「堺アルテポルト黄金芸術祭」堺/大阪
2015「traces」ハンブルク/ドイツ
2015「宝塚現代美術てん・てん」宝塚/兵庫
2012「A as A Project」広州/中国
2011「中之条ビエンナーレ」中之条/群馬
2011「ニュースの外側」ハンブルク/ドイツ
2011「Conversing with Nature」美唄/北海道
2010「Ach, so!?」ハンブルク/ドイツ
2009「我孫子国際野外美術展」我孫子/千葉
2009「中之条ビエンナーレ」中之条/群馬
2008「Back to Black」ベルリン/ドイツ
2008「国際野外の表現展」比企/埼玉
2006「国際野外の表現展」比企/埼玉
筑波大学芸術専門学群卒業
筑波大学大学院芸術研究科修了
大阪芸術大学大学院修了

ACCESS

〈公共交通機関でお越しの方〉

  • 能勢電鉄日生線「日生中央」駅で下車、徒歩5 分。

 

〈車でお越しの方〉

  • 近隣の有料駐車場をご利用ください。

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