のせでんアートライン2019 避難訓練

COLUMN

#20

インタビュー2019/11/14

【地域プロジェククト】一反三畝(いったんさんせ)インタビュー
能勢ブリュワリー創設プロジェクト

 過去に、のせでんアートラインに集った陶芸家・アーティスト・建築家・企業経営者など、多彩なメンバーによる新たなプロジェクトが立ち上がっています。一反三畝の田んぼを耕して大麦、小麦、ホップを収穫し、地元の山からは天然水を。すべての原料を地元産で賄って、能勢のクラフトビールを作る試みです。

 「一反三畝」の代表を務める向井務さんは、「能勢ブリュワリー」創設の先にどんなビジョンを描くのでしょうか。その展望についてお聞きしました。

 

 
――「一反三畝」と「能勢ブリュワリー創設プロジェクト」は、どのようにして立ち上がったのでしょうか。

向井:「一反三畝」は、4年前、のせでんアートラインを通じて知り合って、それぞれ専門分野の異なる人どうしの多様な集団です。メンバーにお酒の好きな人も多くて、出会った頃からビールやお酒を作ってみたいねという話をしてはいたんですが、当初は特に具体的な企画でもなかったんですね。ところがこのメンバーで、3年前に休耕地の田んぼをお借りする機会がありました。お米を植えて、200kg弱ほど収穫できました。「一反三畝」というチームの名称は、この時の田んぼの広さからきています。

この時の収穫の感触から、大麦、小麦、ホップの栽培も同様に可能ではないかということで、「能勢ブリュワリー創設プロジェクト」の計画が現実味を帯びてきました。当面の目標は、醸造所を建てて、地元産で原材料を賄うための仕組みを作り、能勢のクラフトビールを作ること。醸造所の建造と、酒類製造の免許取得のためにあと1年半~2年ほどかかる見込みで、設備と製造体制ともに大体2020年~21年中の完成を予定しています。
 

【地域プロジェククト】一反三畝(いったんさんせ)インタビュー

 
――地元産のクラフトビールは、実現すれば魅力的な観光資源にもなるでしょうね。ビールの原料は、どんな原料ですか?

向井:もともと、能勢の少し北にある亀岡市一帯はビール用大麦の生産地として有名で、能勢も気候、土壌ともに大麦栽培には申し分のない条件です。また、能勢には多くの休耕地があります。土地の持ち主のかたのご協力を得ながら、また休耕地や耕作放棄地の有効活用も兼ねて、質の良い大麦、小麦とホップを減農薬の有機栽培で作りたいと考えています。

また、ビール造りで妥協できない原料といえば、おいしい水ですね。ブリュワリーの建設予定地は、西能勢エリアにあるポンプ場の跡地で、行者山という山の中腹に位置しています。ここには水量の豊富な浅井戸があって、自然豊かな山の表層水が取水できるため、ビール造りにはこの行者山の水を使用する予定です。

ビールといえば、発酵も面白い要素のひとつです。野間の大ケヤキから天然酵母が取れないだろうかということで、現在、挑戦しています。また、能勢には「地黄」という地名がありますが、これは元々、漢方薬になる地黄を栽培していたことから来ているそうです。生薬を使ったビールや薬酒を造るという試みも、将来的にはやってみたいことのひとつです


――向井さんご自身は、長く「みさご珈琲」を経営されているコーヒーマイスターでもあります。コーヒーとビールには、何かご経験からくる共通点があるのでしょうか。

向井:有名人が飲んでいるから流行る、SNSでバズる……、でも、そうやってメディアがマスになればなるほど、個々人の実体験からは離れていきます。

よく、「飲めばわかる」なんて言い方をしますよね。私自身は、自分で作って試飲するって工程は、クラフトの醍醐味だと思うんです。試しに飲んでみて、元の工程に立ち戻って条件を変えて、調整してまた試飲する。それでこそ、自分の手で作っているという確かな実感がありませんか? 焙煎も醸造も、もともと手工業からスタートした産業・文化であって、クラフトワークです。だから、クラフトの実体験と感動を大切にしたいという思いがあります。

それから、ただ地元産の原料でビールを作ることがゴールではなくて、次は、ビールやお酒にどんな付加価値を付けるのか。または、ビールを飲んでもらう場づくりやシチュエーションの演出はどんなものがいいか。さらに魅力的な条件をビールに重ねていくところまで、自分たちの手でやってみたい。そこに、クラフトワークならではの可能性を感じます。
 

【地域プロジェククト】一反三畝(いったんさんせ)インタビュー

 
――のせでんアートライン2019で実施されるローカルプロジェクトも、参加者のみなさんと麦茶の焙煎をするというワークショップ形式ですね。

向井:はい、【野間の大ケヤキと星空を楽しむ、ホット麦茶とお茶漬けの会】という実体験型のワークショップです。麦茶の焙煎をしながら、麦茶漬けを食べながら、古民家の広々とした縁側に座って、ゆっくり日が暮れていく能勢の里山の風景を眺める。日暮れ時の山の稜線の美しさとか、秋の夜の独特の静けさとか、そういうものを贅沢に楽しんでいただく機会にしたいと思います。

当日は能勢町南西部、竜王山の水を使おうと思っています。地元では、ここの水は昔から薬水のように扱われていて、病気になったときなどに竜王山の水を汲みに来る方もいます。やさしい口当たりの軟水で麦茶にも合い、とてもおいしいですよ。


――能勢ブリュワリー完成後のご展望についても、お聞かせいただけますか?

向井:将来的には、能勢ブリュワリーの設備を、地域の人やお酒造りに興味がある方にもシェアしたいと思っています。作ってみたい人が気楽に作れる状況をつくりたいんです。そうすればきっと、作る人の数だけ、多様なブランドとストーリーが生まれるでしょう。また、そうして作られた製品の受け皿として、能勢に飲食店や宿泊施設がもっと増えてくれたらいいですね。その広がりにこそ、大きな期待を感じます。

新しいものって、実は、創始者から他の誰かに引き継がれてからが本番なんじゃないでしょうか。能勢ブリュワリーがきっかけになって、もし、近くで私たちの真似をしてくれる人が現れたら? そういうブリュワリーが2軒、3軒に増えたら? そうして、国内外を問わずにビールが縁を繋いでいってくれたら……。自分たちの手を離れて広がっていく状況になれば、それはもう一事業ではなくて、地域の産業であり文化と呼べるものです。

地産品に携わる人たちや、地元の歴史や観光にかかわる人たちと、ビール造りを通じて協業しながら、能勢の新しい産業と文化を作っていきたい。その文化を味わい、体感するきっかけの場所になりたいし、能勢に新しい産業や文化を育むための起爆剤になりたい。実現に向けて、まずは能勢ブリュワリー創設のために尽力していきます。
 
 
 

【地域プロジェククト】一反三畝(いったんさんせ)インタビュー

向井務(むかい・つとむ)
兵庫県川西市出身、会社員時代に転勤先の静岡で珈琲焙煎に出会い、それ以降小商いとして珈琲焙煎士、珈琲の講師として活動。大阪に転勤で戻ったのを機に珈琲屋として独立。珈琲焙煎を小商いにしたい人たち向けに珈琲塾を主宰、生徒数は100人を超える。地域活動も盛んに行い、珈琲を通したり通さなかったりして、千年先を見据えた活動を行っている。

●能勢ブリュワリー創設プロジェクト
http://noseden-artline.com/2019/localproject/noseden-190/
●野間の大ケヤキと星空を楽しむ、ホット麦茶とお茶漬けの会
http://noseden-artline.com/2019/event/noseden-296/
 
 
 

インタビュー日・2019/09/30
インタビュアー/文・石田祥子

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