COLUMN
インタビュー2019/10/30
【地域プロジェクト】里山バンクプロジェクトインタビュー
地方創生2.0会議~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~
豊能町吉川地区の古民家を活用し、シェアハウスやゲストハウスとして運営する「里山ベース ハナビ」。2018年に運営開始から、ここでさまざまな試みが行われています。
地域の新たなコミュニティづくりを目指す中で、里山のヒト・モノ・コトを見える化する「里山バンクプロジェクト」もスタート。これからのコミュニティのあり方や町の一員としてさまざまな仕掛けを作る面白さについて、代表の鶴田勇気さんにお話しを伺いました。
「里山ベース ハナビ」が出来るまで
――「里山ベース ハナビ」でどんなことをしているのか、教えていただけますか。
鶴田:「里山ベース ハナビ」は、シェアハウスとゲストハウスを核にしたコミュニティづくりを中心に活動しています。里山の空き家をシェアして生活コストを下げ、本当に好きなことにチャレンジできる余白を生み出すことが大きなテーマです。いろんな人が集まることで、それぞれの人生に刺激を与えあえるようなコミュニティづくりを目指しています。
――オープンしたのは2018年と伺っていますが、どのようなきっかけでシェアハウスをやろうと考えられたのでしょう。
鶴田:経緯を話すと長くなるんですが……(笑)。ここに来る以前は、大阪市内でシステムエンジニアとしてWEB関係を中心とするお仕事をしていました。超有名企業なのですが、そこで長く働いている人は、たとえ違和感や疑問があったとしてもお金のために仕事をしているという人が多くて、ずっと疑問を感じていたんです。
そんな中、母がくも膜下出血で倒れ、同時に実家に借金があることがわかったんですよ。借金はなんとか返せたのですが、その時にお金について勉強しなくてはまずいと思い、ファイナンシャルプランナーの資格を取得しました。知識のアウトプットの場を設けたくて、お金をテーマにしたブログを立ち上げたところ、月間PV40万を超えて次第に家計の相談をいただくようになったんです。そこで副業として家計の見直しのコンサルティングを始め、2年ほどで独立しました。
コンサルティングは固定費をどのように減らすか、お金をどのように使うべきかという2つの視点でアプローチしていましたが、短期間のお付き合いではなかなか伝えたことを実践してもらうには至らなかったんです。お客さんと長期間関わる必要性を感じていましたが、1対1で長期間のコーチングとなるとコスト的にもお客さんの負担が大きくなります。なので、長期でグループセッションができるコミュニティが作れたらいいなと考えるようになりました。ある時、「それってシェアハウスが理想なんじゃないの」と突然閃いたんですよ。みんなで住めば、生活コストも下がりますし。どうせやるなら、心身共に健康に暮らせる、自然の多い環境でチャレンジしたいと考えて物件を探し始めたのが2018年5月のことですね。
――お仕事で感じられたことや、人生で大切なことを実現する理想の方法として、シェアハウスを思いつかれたのですね。長い経緯があるものの、閃いてから実現まではスピード感がありますね。
鶴田:そうなんです。ポンポンと話が決まりました。
シェアハウスを思いついた時に、ちょうど仲のいい友人が豊能町に引っ越したので、いい物件があったら教えてほしいと頼んでいたんです。すると3週間ほどで友人から家の前の物件が空いたと連絡があり、内覧した当日に住むことを決めました。大家さんもよそからやって来て苦労の末に長い間商売をしてこられた方だったので、「チャレンジの土台となるシェアハウスとしたい」という想いを伝えたらすごく応援していただけました。
実は友人に相談したのが、豊能町で町づくりに関するチャレンジを支援するプログラム「トヨノノドリーム」の書類選考締め切りの1週間前だったんです。調べてみると、空き家を利用したシェアハウスの運営を民間事業者に委託するという町づくりの構想もあると掲載されていて「これだ!」と思いましたね。プレゼンに参加して支援が決まったのですが、支援が正式に決まる前に物件が見つかってしまって(笑)。
地域を見える化する新たな挑戦「里山バンクプロジェクト」
――鶴田さんがやりたいことと、建物のオーナーさんや町が求めていたことがうまく一致した結果、今の場所ができたんですね!実際に豊能町に住んでみて、この地域の魅力は何だと思われますか?
鶴田:移住する前から魅力だと感じていたのは、自然豊かな場所でありながら都市部に近い点ですね。ハナビから妙見口駅まで徒歩6分ほどですし、大阪市内まで電車で1時間というアクセスのよさは強みだと思います。
地域のお祭りにも参加させていただいていますが、ハナビがある集落はよそから来る人に対する抵抗感が比較的薄いように思います。ここは宿場町だった歴史があり、現在は能勢妙見山への参拝やハイキングコースにもなっています。他の地域から来た人を受け入れやすい土地柄なのかもしれません。
――地域にスムーズになじむことができて、コミュニティづくりは順調に進んでいるのですね。今回の地域プロジェクトも、コミュニティづくりの一環なのでしょうか。
鶴田:おかげさまで、地域の方との繋がりや、いろんな人が集まるコミュニティづくりはできてきたので、次の段階として、繋がるスピードがより速くなるような施策を考えています。それが今回の地域プロジェクトである「里山バンクプロジェクト」です。シェアハウスを中心とするリアルなコミュニティ内で情報を吸い上げ、WEBを使ってこの地域のヒト・モノ・コトを見える化しようという試みで、コミュニティづくりから町づくりに近くなってきたんじゃないかと思っています。
移住に興味があっても、地域にどんな仕事があるか、住まいはどうすればいいか、なかなか他の地域からは見えないのが現状です。例えば住む場所ですと、都市部と違って田舎の物件はネットに情報が無く、オーナーさんとの直接交渉が多くなります。そうなると、その地域に繋がりが無いと探し出すのは難しい。また、オーナーは近所付き合いがあるので、よく分からない人に貸すのは抵抗があるのも当然だと思います。僕たちもただ住むだけの人じゃなくて、出来れば一緒に盛り上げられる人に来て欲しいと思いますし。地域と地域に興味がある外部の人との橋渡し役として、情報発信ができればと考えています。仕事についても同様です。月給50万円の仕事は無いですが、月に5万円~10万円の仕事は沢山あるので、掛け持ちをすれば十分に生きていくことは可能です。
――なるほど。のせでんアートライン期間中は、関連するトークイベントを開催されるとお聞きしています。
鶴田:プロデューサーの大森さんとも相談させていただいて、地域創生や町づくりに関わる方をゲストにお招きして、地域の新たな可能性について考える座談会をすることになりました。トークの後はその場で懇親会を予定しています。希望される方は宿泊も可能ですよ。
――最終電車を気にしなくていいイベントなんですね!
鶴田:集まれる場所と宿泊施設の両方を備えるハナビだからこそできる形ですね。お喋りして、お酒を飲んで、そのまま寝られます(笑)。
町づくりは究極のエンターテインメント
――ここまでいろいろな試みについてお聞かせいただきましたが、今後はどんなコミュニティづくり、町づくりをしたいと考えておられますか。
鶴田:この地域に、「ワクワク」を仕掛ける人をどんどん増やしたいですね。また、初めから意識しているのは、ボランティアではなく事業として地域活性化を行うバランス感覚です。ボランティアが悪い訳ではないのですが、やはり継続する為にはお金を回すことが必要です。同じことをしたい人たちがいても、無償が前提となれば疲弊するばかりなので、事業としてしっかり稼ぎつつ、地域を盛り上げていくモデルを作りたいと考えています。
自分たちが仕掛ける側として取り組んでいると、町がどんどん変化していくのがはっきりわかるんです。自分が関わることで町が動いていくという体験は、ただ消費するだけ、画面の向こうから見ているだけで過ごすよりもずっと面白くて刺激的です。これまでさまざまな活動をする中で、町づくりは地産地消できる究極のエンターテインメントなんじゃないかと考えるようになりました。ここでやりたいことを実現して、自分で運営していくような人が増えたら、「面白いことが起こっている」というワクワク感が周りに伝わってさらに多くの人が集まるはずです。面白いこと、面白い人が集まる地域づくりの一助として、「里山バンクプロジェクト」がお役に立てたらと思っています。
鶴田勇気(つるた・ゆうき)
「まちづくりは地産地消の究極のエンタメ」をテーマに、大阪府豊能町にある築100年の古民家にて、シェアハウス・ゲストハウスを中心としたコミュニティデザイン事業を展開しています。
●里山バンクプロジェクト http://noseden-artline.com/2019/localproject/noseden-197/
●地方創生2.0 会議 ~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ http://noseden-artline.com/2019/event/noseden-286/
インタビュー日・2019/09/28
インタビュアー/文・油井康子