のせでんアートライン2019 避難訓練

COLUMN

#4

インタビュー2019/10/21

【地域プロジェクト】能勢なつかしさ推進協議会インタビュー
GOING ON(恩)PROJECT

2019年10月、東郷地区を中心とした能勢町内のお店、イベント情報、人々の暮らしに関する記事などが読める地域情報サイト「Togo Village」が公開されました。
「能勢なつかしさ推進協議会」が運営する当サイトの各記事は、実際のお出かけに必要な情報にとどまらず、地区の歴史や風習、そして暮らす人の姿を伝えています。このような形での丁寧な情報発信に至った背景は、どんなものだったのでしょうか。協議会の一員としてご活動を進める立花之輝さんに、お話をお聞きしました。

【地域プロジェクト】能勢なつかしさ推進協議会インタビュー

――「能勢なつかしさ推進協議会」が発足したきっかけは、東郷地区にある築400年の古民家だったとか。協議会発足以前から、この改修を進めてこられたのですね。

立花:はい、2015年頃から少しずつ改修を進めてきました。能勢町内には、築年数を経た希少な古民家がいくつも残されていますが、これはその中でも年数が際立って古く、長い時を経た柱や梁の存在感などは格別で、他所では得難い、素晴らしい物件です。この物件を、古民家再生を数多く手掛ける坂井建築事務所が取得して、一棟貸しのゲストハウスとして再生させることになりました。

2018年に協議会を立ち上げ、2021年春のオープンを目指すことになりました。協議会設立のねらいには、このオープン時期に先駆けて、東郷地区を訪れる観光人口や交流人口を増やすことも含まれています。

【地域プロジェクト】能勢なつかしさ推進協議会インタビュー

――「GOING ON(恩)PROJECT」とは、どんなご活動ですか?特に、“恩”というキーワードがどんなことを意味するのか、ご説明いただけませんか?

立花:能勢の町を訪れると、素朴な古民家と畑、その背景に山々が連なる平穏な風景に、どこかなつかしさ、居心地の良さを感じられることと思います。ですが、今のこの心地よさは、実は、決して平坦な道の上に築かれたものではないんですよ。この土地は、もともと水害の多い土地でした。先祖たちは、度重なる水害に骨身を削るような苦労をしながら立ち直り、集落を築いて残し、子孫に引き継いでくれたのです。

現在の能勢の心地よさというものは、先祖から引き継がれてきた“恩”の上にこそ成り立っています。これは単に、景観だけに限った話ではありません。たとえば、先祖代々受け継がれていく田畑や家、信仰やお祭りもそうです。

しかし、その大元にある由来や意義のような精神性の部分まで、確実に若い世代に伝わっているでしょうか。代々受け継がれてきた風習も、本来の意義を失えば、いずれ形骸化して消えてしまうでしょう。次の世代に、この恩を引き継ぐための“恩送り”の場が必要なんじゃないかと考え、立ち上がったのが「GOING ON(恩)PROJECT」の試みです。

「GOING ON(恩)PROJECT」では、東郷地区に古くから暮らしてきた住人にインタビューを行い、村の記憶や風習を書き残して蓄積していきます。さらに、インタビューで聞き取ったエピソードの中から、「しめ縄づくり」や「もんどり(魚捕り)」などの項目を体験プログラム化します。子どもたちが楽しんで参加できる“恩送り”の場を設け、地域の記憶を受け継いでいけるよう、機会を提供していきます。

【地域プロジェクト】能勢なつかしさ推進協議会インタビュー

――すると、歴史風土のような大きなものから、生活習慣上の小さな知恵までが“恩”に含まれるようなイメージでしょうか。立花さんご自身が、具体的に“恩”を実感されたのはどのようなことでしたか?

立花:2018年、能勢なつかしさ推進協議会を立ち上げるにあたって、住民説明会を開催しました。参加者の中には、60~70歳代以上の住民も数多くいらっしゃいました。その席で、皆さんに子どもの頃のお話を聞かせていただいたら、賑やかな思い出話で大いに盛り上がったんです。手づかみで川魚を捕まえたとか、盆踊り会場を何か所もはしごしたとか、あるいは悪さをした罰として蔵に閉じ込められたなんて話も。それはもう、話題が無限に湧き出してくるんじゃないかというくらいでした。

この無数のエピソードは全て、皆さんが先祖から教わり受けとってきた“恩”なんですよね。私自身は能勢に住んで10年近くになりますが、今になって思い返すと、私が移住してから古い住民の方から断片的に教わった風習や知識のひとつひとつもまた、こうした“恩”に連なるものです。ずっと住んでいる人にとっては当たり前のことなのでしょうが、大人になってから初めて教わる私にしてみれば、どれも新鮮で、貴重で、他では聞けないような話ばかり。この“恩”という価値観があればこそ、能勢での日々の心地よい暮らしが成り立っていると強く感じます。

東郷地区には、「東郷村史」という書物が残されていて、私にも、プロジェクト開始に当たって、改めてこれを読んでみる機会がありました。100年ほど前に書かれたもので、村の歴史と伝統、祭りのこと、地形と家のこと、言葉や風習から作物の育て方に至るまで、事細かに記載されています。著者は、先祖から教わり引き継いできた“恩”を、集落に住む子や孫のために書き残そうとしたんですね。

つまり「GOING ON(恩)PROJECT」は、現代の東郷地区の住人が、次世代へと恩を送るための「令和版・東郷村史」とも呼びかえることができるかもしれません。プロジェクトを通じて行うインタビューの内容はWEBサイトに公開されますので、世界中どこからでも閲覧することができます。ぜひ、住民以外の方にもたくさんご覧いただきたいと思います。


――のせでんアートライン2019で実施されるローカルプロジェクトは、東郷地区を実際に歩いてみる、というご企画ですね。

立花:【野間の紅葉名所を<五感>で味わう小旅行 ~大ケヤキ・大イチョウ・「野間の森MIGIWA」を、あるく・みる・きく・しる~】という探索プログラムを企画しています。野間の大ケヤキを皮切りに、集落内の紅葉スポットを巡りながら、東郷地区に残る“恩”を訪ねて歩きます。歩いたあとは、自分たちで木を植えた“雑木の森”と一体になったレストラン「野間の森 MIGIWA」で、一流シェフによる食事を楽しんでいただきます。

観光人口、交流人口を増やすことがねらいとはいえ、私たちは、ただやみくもに人が増えることを目指すわけではないんです。“恩”の価値観によって維持されてきた東郷地区の成り立ちに共感し、この居心地の良さを楽しんでくれる人にこそ訪れてほしい。そして、先人たちへの感謝と尊敬の気持ちを持って、5年、10年先もここを維持するために力を貸していただけたら、これほど嬉しいことはありません。




【地域プロジェクト】能勢なつかしさ推進協議会インタビュー

立花 輝之(たちばな・てるゆき)
大阪のニュータウンに育ち、京都の大学に通い、東京のデザイン事務所で会社員生活を十数年送った後、退職し職業訓練校で木工家具を学ぶ。家具が製作できる工房が持てる場所を探しているうちに能勢町にたどり着き、移住。現在デザイン8割木工2割くらいのバランスで仕事をしている。令和元年度大阪府6次産業化プランナー。

●なつかしさの杜  https://natsumori.jp/
●地域情報サイト「Togo Village」 https://togo-village.com/
 
 

インタビュー日・2019/09/30
インタビュアー/文・石田祥子

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