のせでんアートライン2019 避難訓練

COLUMN

#40

レポート2019/12/05

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

11月15日(金)夜、普段は静かな里山の夕暮れも、この日は少し様子が違っていました。この日開催されたのは、地域プロジェクト「地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~」と題したトークセッション。大阪最北端の駅「妙見口」駅から、妙見山へと続く細い参道「花折街道」の途中にある、築100年を超える古民家シェアハウス「里山ベースハナビ」がその会場です。

 

知名度が低く知らなかった町。閉じた空間を開いたら、新しいコトが動き出した

 

古民家シェアハウスを運営するのは、合同会社エンカレッジライフ代表の鶴田勇気さん。昨年実施された豊能町主催「トヨノノドリーム」のプレゼンテーションをきっかけに、東大阪市から豊能町に移住。空き家だった古民家をセルフリノベーションし、現在はシェアハウス、ゲストハウス、地元のマルシェへの出店とさまざまな事業を展開。吉川地区で新しい動きを牽引されています。

のせでんアートラインの地域プロジェクトチームと鶴田さんは半年の構想をかけて内容を練りこの会議を企画しました。

 

多様な人を受け入れる 築100年の古民家のCo-Working & Co-Living

 
築100年を超える古民家の立派な梁が交わる土間が受付。傍には、カレー&カフェ「477(ヨナナ)」のコーヒーのサービスが。こちらも、古い空き店舗をおしゃれなカフェとして再生、地域に新しい風を呼ぶショップです。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

 
和室に集まったのは総勢40名を超える人たち。近隣の北摂・京阪神はもちろん、遠くは埼玉、首都圏からも参加者が集まり、熱気とイベントの注目度の高さを感じました。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

女性や就学前のお子さんたちの姿もあり、用意されたキッズスペースで機嫌よく遊んでいる姿も和みます。ここが「コ・リビング形式 *1」の良さ。誰でも集える懐の深さを感じます。

*1……コ・リヴィング(co-living)とは、シェアハウスのように複数の人が共に暮らしながら、コミュニティの中で継続して生活していく暮らし方のこと。職業が異なる人が集まって共同で仕事をするコ・ワーキング(co-working)とともに都心を中心に若い世代間で広まっています。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

国政で若者の移住が広がった1.0。課題が見えてきた2.0時代が到来

 
イベント開始はのせでんアートライン2019 地域ブランディングプロデューサーの大森淳平さんによるこれまでの地方創生の振り返りと、見えてきた次の課題に関する説明です。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

地方創生という言葉が頻繁に聞かれるようになった4〜5年前。「地域おこし協力隊」など総務省による国政の後押しもあり、就業面も含め若者が地方に移住しやすい環境が整備されました。その段階を「1.0」とするのであれば、それから一定の期間を経て、新たな挑戦や課題が見えてきた現在は「2.0」にあたるのではないかと考え、この会議では一旦そのように定義されます。
 
 

鶴田勇気さん「自分が主体になれるワクワクを追求したら、それは誰かのエンタメになる」

 
最初の登壇者は鶴田さん。まずこの1年半の豊能町吉川地区で行った取り組みの紹介です。里山ベースハナビは2018年5月スタートし、前述のようにシェアハウスを主体にゲストハウスとしての許可を取得、最近では住民の方と一緒にバーベキューテラスを作るなどしています。

ハナビの家賃は月4万円でお米と野菜つき。ただ人を集めるだけでなく、古民家に集い、自分のやりたいことにチャレンジできる土台作りをしてもらうのが目的となっています。

「自分たちの活動はお金だけではない繋がりを作り、一緒に何かやっていける仲間を募るものと捉えています」との言葉通り、DIYで古民家の修理をしたり、近くの農家さんと連携して芋掘り体験イベントを開催したり、鍋を囲んだ交流会を行ったりしています。こうした積極的な地域住民との関係形成によって、吉川地区の定住人口と、イベントや宿泊による交流人口を増やしています。

またハナビ居住者が技術を生かして便利屋さんを始めたりするなど、移住だけに止まらず、地域での仕事を生み出したりもしています。

鶴田さんは移住してくるまでまったく知らなかったこの豊能町吉川地区で過ごすうちに、現在は「どうすればこの地域が良くなるのか」を考え始めたそうです。

「好きなことにチャレンジしたい人とまちづくりがしたい。一人ひとりが主体的・能動的なワクワクを実践することでまちは良くなる」と考え、自分が本当に楽しいことを追求するとそれが伝搬して、他の人のエンタメになる」と話す鶴田さん。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

WEBマーケティングで培った集客力

 
元々、IT関係の仕事に就き、ブロガーとしても読者を集めていた鶴田さんは、WEBマーケティングに詳しく、情報発信のノウハウも持っていました。そのノウハウを生かし情報発信に選んだのはFacebook。Facebookの100人の友だちのさらにその友だちの100人に届けるという意識で日々発信を行うことをただひたすら続けました。その効果か、スタート時点でシェアハウスに8人の住民を集めることができました。

また人が集まってくることにより、その人たちが持つ技術や情報で協力してくれ、改修の必要があるときには大工や電気工事をやってた人が手伝ってくれたりするなど、その時々に必要なものが自然に集まってきたそうです。
 
 

応援してくれる人には、「理由」と「言葉」と「行動」を具体的に伝え、拡散してもらう

 
鶴田さんが考える人を集めるコツは、自分を応援してくれる人には「理由」「言葉」「行動」までを具体的に伝えることだそうです。

ただぼんやりと「ぼくたちを応援してください」と言うのではなく、まず「ここを人生に挑戦する人を応援する場所にしたい(理由)」ことを挙げ、「友人が古民家シェアハウスを営んでいる(言葉)」こと、そして「今日の感想(言葉)」も入れて「発信(行動)」してほしいとお願いされています。

情報を広げ確実に届けるための努力を重ねて来た鶴田さん。時間がゆったりと流れている里山にいても、その行動力と起業マインドで変化の波はスピードを上げています。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

 
 

水谷岳史さん「自然に任せていたらコミュニティができていった」

 
次の登壇者は、愛知県名古屋市で空き家などを活用したシェアハウスや飲食店を経営し、庭師でもある水谷岳史さんです。

名古屋市内の栄生駅周辺で、築年数の古い空き家をセルフリノベーションしながら、次々とシェアハウスやシェアスペースを展開してきた水谷さん。住民にまかないを出すために飲食店を作ったり、シェアスペースを借りた女性のためにミシン専用部屋を作ってあげたりしていたら、ミシンの彼女は今や人気クリエイターになっているとか。そんな自然に流されるまま活動してきたことが形になるなかで大切にしていることをお話されました。

最初のきっかけは古い空き家を借りて友だちと住み始めたこと。その家はたくさんの人の溜まり場になり、人が集まることでコミュニティが生まれました。そしてその広がりから、友だち以外も集える場所を作ることになり、アトリエという名のスペース貸しも始めるという流れに、自然となっていったと水谷さんはおっしゃいます。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

これまで流されるままコミュニティを広げてきた「On-Co」にはこんなエピソードも。
「高校生がお店をしたいと言ってきてくれたので、メニューの企画から販売までやってみなよってことで、高校生が自分たちで全部やる『高校生食堂いりゃあせ』が開催されたりしました。あとシェアハウスの住人だった人たちがカメラマンになったり、雑誌編集の仕事に就いたりしてソーシャルアクション系で有名な某メディアの取材をしてくれたときはうれしかったです。カメラマンが元住人なので、どこからなら良いカットが撮れるか熟知してるんですよね(笑)」

On-Coは、参加する人にコンテンツを持ってきてもらうことを基本としています。水谷さんたちが作るのはフレームだけ。例えば、マルシェの音楽イベントに出店したときには、水谷さんは楽器だけ用意します。それを奏でるプレイヤーはそのときに集まってくれた子どもたち。あくまでも中身は参加者が作る。その考え方は、水谷さんが庭師であることが大きく影響しているのかもしれません。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

「挑戦を応援できる街が生き残る」

 
庭師というのは、良い方に行く枝はそのままにして、変な方向に行った枝だけを手入れするんだそうです。シェアハウスもプロジェクトも一緒だと水谷さんはおっしゃっていました。

水谷さんのユーモアを交えたトークに会場は笑いと感動が絶えません。来るものを拒まず、自然に任せて育っていくコミュニティや、住人を応援していく独特の温かさは、水谷さんが庭師の顔を持ち、伸び行くものの個性を生かしたフレームづくりに徹していることと関連していそうです。

水谷さんが取り組む次なる企画は「さかさま不動産」。借りたい人がどんなコトをやりたいか掲示し、不動産を持つ人が借りる人に場所を提案するという、借り手と貸し手が従来とは逆になった不動産賃貸のプロジェクトです。これからもOn-Coが起こすユニークな場所作りや、プロジェクトからは目が離せそうもありません。
 
 

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

坂本大祐さん「自分がやりたいこと、まちの環境資源、地域の困りごと。その3つが交わる場所に注力する」

 
最後は、奈良県東吉野村でシェア&コワーキングオフィス「OFFICE CAMP」を運営する坂本さんです。「OFFICE CAMP」はスタイリッシュなデザインのシェアオフィスです。コーヒースタンドや展示室も併設されており、オフィスを利用しない人たちにもオープンな場所になっています。

ここにはデザイナー、カメラマンなど、様々なクリエイターが集まりました。多様な働き方が進んでいるとはいえ、交通も不便で人口が1700人を切るような豊かな自然だけが魅力(というと失礼ですが……)である限界集落へどのようにして移住者を呼び込んだのでしょうか。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

過疎地に移住した若者はどうやって生きてゆくのか。地域プロデューサーの大森さん曰く「スタート時から洗練された取り組みを実践し続けている」という、坂本さんのプロジェクトが紹介されます。
 

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

シェアオフィスは魔法の言葉ではない。机と椅子を用意しても人は来ない。

 
坂本さんも13年前に大阪から来た移住者です。
「必要とされるのは、ターゲットを絞ったシェアオフィス。どんな人に来て欲しいかを明確にして、デザインすることが大切。デザイナーや編集者、カメラマンなど、フリーで働くクリエイターをターゲットにしました。またそういう人がここを利用したいと思えるような空間にすることを意識しました。これを『クリエイティブ・ヴィレッジ構想』と名付けて、奈良県へ提案したんです」

坂本さんは「まず自分のやりたいことや好きなことを一番に掲げ、そのエリアの環境や資源について調べる。そしてその地域の課題や困りごとをどうすれば解決できるかを考え、その3点が交わることを進めていけば田舎への移住はうまくいく」と言います。

たしかに、自分のやりたいことがなければ熱意を持って取り組めません。そして環境や資源(住居や仕事、住んでいる人たち)についてよく調べることは地域への理解を深めてくれます。また理解するだけでなく、その地域をより良くするために協力することで、自分たちの居場所を作り出すことができます。それはもしかしたら都会の中で暮らす人たちにとっても、豊かな日々を過ごすための大切なヒントになるのかもしれません。


登壇者のみなさんのお話の後は、集まったみなさんと、地域の新しい可能性について語る会としてお鍋が用意されました。

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

【地域プロジェクト】地域創生会議2.0~地方に面白い人が集まり、新たな可能性を生む~ イベント開催レポート

 

最後に

 
閉ざされた空間をひらき、生かしていくシェアリングエコノミーというシステム。やりたいことを突き詰めていく過程のなかで周囲との協働が生まれたり環境に寄り添う気持ちを持つことで、その場所や土地固有の成り立ちにフィットしたモノやコトが育っていくのかもしれません。それはワインやお茶などの品種ごとの生育地の地理、地勢、気候による特徴が、作物にその土地特有の性格を与える“テロワール”にも似ています。

時代を経て、少子高齢化、過疎化の波は確実にあれども、こうしたシェアリングの文化が新しい可能性を生み、創造的なマインドを次世代に繋いでいくことができるのではないかという、ポジティブで温かな空気の漂う集いでした。

お鍋の後も引き続き、ハナビに宿泊されたみなさんは、夜更けまで語り合ったとのこと。情報や新しいことが集まるのは、都心だけだと思っていると見落としてしまうこともあるのかもしれません。

偶然にも次の日、ハナビで宿泊されたという男性に、カフェで遭遇しました。手には水谷さんのプレゼンの言葉をプリントアウトしたものを持っておられ、そこには"挑戦を応援できるまちが生き残る"と大きく書かれていました。男性の晴れやかな笑顔に早くもまちの変化の兆しを感じたのでした。

 
 
取材日・11月15日
取材/文/撮影・長屋公美子
撮影・嶺倉栄

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