のせでんアートライン2019 避難訓練

COLUMN

#5

インタビュー2019/11/01

【地域プロジェクト】NPO法人 大きな樹インタビュー
東郷地域おみせづくりプロジェクト

 「子どもの声と笑顔がいっぱい咲く東郷にする」。そのビジョンの実現に向けて、NPO法人「大きな樹」は、屋台カフェ「ありなし珈琲」、ハイキングコース「ありなしの道」、「かんでん楽市」など、多彩な分野で活動を続けています。また一方で「空き家ネットワーク」を運営して古民家物件と移住者を繋ぎ、若い世帯や子どもたちを地域へ受け入れる試みを進めています。

 それぞれのご活動について、「大きな樹」理事長・平田常雄さんに当時のお話をお伺いしました。

 


――まず「大きな樹」を設立するに至った背景について教えてください。

平田:2012年に組織された東郷地域村おこし会議が、NPO法人「大きな樹」の前身です。地元の者と移住された方が一緒になって、自分たちでできることから地域を盛り上げようということで、活動を始めたことが発端です。

立ち上げのきっかけは、町内の少子化が深刻化しつつあったことでした。現に2016年春には、能勢町内にあった6つの小学校と2つの中学がそれぞれ1校へと統廃合されました。校舎の老朽化と、児童・生徒数の著しい減少が統廃合の主な理由です。

能勢の歴史は古く、たとえば、だんじり祭りのように代々引き継がれてきた文化風習もよく残っています。祭りでは、約4年に1度、野間神社の秋の大祭で各地区がだんじりを出して曳行し、神輿とともに宮入りするんですね。しかし、若い人が減って後継者がいなくなれば、だんじりの曳手もおらず、神輿を担ぐ人もいなくなる。後継者がいなくなれば、伝統なんて、いとも簡単に断ち切れてしまう。代々受け継がれてきたものを、次の時代に引き継いでくれる子どもたちが地域からいなくなる。これは、大きな危機感を抱かせる事態だったんです。


――2014年1月には「大きな樹」としてNPO法人格を取得されていますね。その後、まずは交流人口を増やすことを目指されたそうですが、具体的には、どのような試みだったのでしょうか?

平田:国指定の天然記念物「野間の大ケヤキ」のすぐそばに、自家焙煎のコーヒー屋台「ありなし珈琲」の開業を目指しました。2013年秋から主婦4名による試験的営業がスタートして、翌2014年には正式営業に移行しています。大ケヤキの近辺はドライブでもツーリングでも、またサイクリングでもアクセスが良いため、開店以来、多数の方にお立ち寄りいただいています。

ただ、試験営業の際に、コーヒーを提供しながら来店してくださった百数十名の方にアンケートを取ってみると、残念なことに、大多数の方が能勢を目的に来たわけではないことがわかったんです。当時、多くの方は能勢で大ケヤキを見ながらちょっと休憩をするくらい。珈琲店が賑わうようになって、滞在時間も長くなりゆっくりくつろいでいただけるようにはなりました。でも、大ケヤキに来られた方が、地域を散策されることがなかったんです。

【地域プロジェクト】NPO法人 大きな樹インタビュー


――すると、次の課題としては、お客さんが地域を散策して能勢の魅力をもっとよく見て、知っていただくような仕組みが必要になったわけですね。

平田:そうなんです。そこで、この能勢の豊かな自然をよく見ていただけるようなハイキングコースを作れないかという声が挙がりました。それが、2015年に開通した「ありなしの道」です。これは、日本一の里山といわれる黒川の桜の森と、単体木として日本一の野間の大ケヤキを結ぶ、“日本一を結ぶハイキングコース”です。

当初は土地の所有者すべてに了解を取って、倒木だらけの道なき道を片付けてと、開通させるまでにはたくさんの困難がありましたが、苦労の甲斐あって、現在までに年間1,000人以上のハイカーさんが訪れてくださる人気コースとなり一気に交流人口は増えました。


――のせでんアートライン2019で実施されるローカルプロジェクト「能勢かほる ―のせマルシェ」へのご協賛も、こうしたご活動の一環でしょうか?

平田:地元の人は、能勢は田舎でお店もないし不便だ、ということをよく言われるんですね。町にお店があるということは大事なことで、単に買い物や外食が便利になるだけではないんです。お店は、時に住民同士の情報交換の場になったり、その場でコミュニティのルールやモラルが作られたりする場でもある。これは、町全体の活況に大きく影響します。

マルシェには、能勢の地元産素材を使った食品や加工品のお店が多数出店されます。また、大きな樹では、お花や紅茶、グリーンウッドワーク、ロウソクづくりなどのワークショップを開催します。買い物だけでなく、能勢の魅力に気軽に触れて、地元の者と交流いただける機会として楽しんでいただけたらと思います。

【地域プロジェクト】NPO法人 大きな樹インタビュー


――能勢の魅力を知ってもらえるようにとのご活動の結果、すでに何組も移住者を迎えておられますね。しかも、皆さん強い思い入れを持って移住していらっしゃるようです。

平田:ええ、面白いことに、移住された方々って本当に能勢への気持ちが強いんですよ。能勢は自然が多くて子どもたちをのびのび育てられる、こんないいところはないって言ってくれるんです。古くからの住民のほうが、改めて彼らから地元の良さを教えられるような場面も数多くあります。

大きな樹では2016年に「空き家ネットワーク」を立ち上げて、古民家の所有者と移住希望者をつなぐ役割を担っています。現時点で6軒6家族22名の方が移住され、中にはお店を開業された方もおられます。来年の春にもまた、新しい移住世帯をお迎えする予定です。

一方で、このあたりを開発して大型施設を誘致するという話も定期的に何度か持ち上がっているんです。ですが、これまでに能勢を選んで移住してくれた方が、そんなことを望んでおられないのは明らかですよね。皆さん、この原風景の残る里山、伝統的な祭りや昔ながらの風習と暮らし、そういうものに魅力を感じたからこそ移住先に選んでくださったはずです。私たちも、この美しい原風景こそが能勢の財産で、これを維持することが能勢の未来に、伝統と歴史の継承に繋がっていくと信じます。

樹齢1,000年を数える野間の大ケヤキは、私たちにとってのシンボルツリーです。この大ケヤキが生き続けてくれる限り、この豊かな自然と文化、暮らしを次の世代に繋いでいきたいと、そう願っています。


【地域プロジェクト】NPO法人 大きな樹インタビュー

平田常雄(ひらた・つねお)
1957年大阪・能勢に生まれ。保育所から高校まで地元の学校で学ぶ。小中学校の統廃合をきっかけに、このまま何もしなかったら子供の声が聞けなくなるのではと2012年有志7名で町おこし会議を立上げ、2014年にNPO法人大きな樹を設立。野間の大ケヤキを拠点とし、能勢に交流人口を増やしたいと「ありなし珈琲」や「ありなしの道」を始める。
2016年能勢町けやき資料館の指定管理者として管理運営を始める。36年間製造業に勤め、2017年定年退職を機にけやき資料館の館長となる。

●東郷地域おみせづくりプロジェクト
 http://noseden-artline.com/2019/localproject/noseden-195/
●能勢かほる — のせマルシェ
 http://noseden-artline.com/2019/event/noseden-288/
 
 

インタビュー日・2019/09/30
インタビュアー/文・石田祥子

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