のせでんアートライン2019 避難訓練

COLUMN

#10

インタビュー2019/10/24

【地域プロジェクト】一般社団法人DOORインタビュー
いながわの森活用プロジェクト

のせでんアートライン2019では「いながわの森活用プロジェクト」として、猪名川町の自然の豊かさを感じながら森の活用方法を探るイベントを一般社団法人DOORが企画されています。これまで一般社団法人DOORでは、日生中央の手付かずの山を楽しみながら整備し、新しい森の活用モデルを構築していきたいとこれまで様々な活用方法を考えてこられました。今回ののせでんアートラインでどんな取り組みをされるのか、代表理事の車さんにお話をお聞きしました。

誰もが楽しみやすい、ハンモックの森をつくろう


――「いながわの森活用プロジェクト」ではどんなイベントをされるんですか?

車:のせでんの日生中央駅近くにある森の中で木を切り、焚き火やバーベキュー、ハンモック、それとマウンテンバイクや原木しいたけ狩りなど、子どもから大人まで1日楽しめる参加体験型イベントを企画しています。


――楽しそうですね! この中でも注目すべきはどんなところになりますか?

車:今回のイベントではハンモックと焚き火でしょうか。まずハンモックで誰もが気軽に里山を楽しめる森を作り、猪名川という場所を知ってもらうきっかけになればと考えています。また自分たちで間伐した木でスウェーデントーチや焚き火をし、コーヒーを楽しんだり。これはそんなに難しくなくお金もそれほどかかりません。また間伐を行いその木材を使用することで、山がきれいになるという体験ができます。そういう体験をする人たちが増えれば、たとえ木が倒れたとしても業者に依頼することなく、自分たちで倒木を活用できるようになります。

 里山は一度手を入れたらずっとそれを続けなければいけないんです。だから趣味として楽しみながら続けていけるといいのではないか。そういうことで自然の理にかなった昔のサイクルに少し戻せるのではないかと考えています。

 私たちはこういった里山の活用方法があることをPRして、そのことに興味を持つ人たちを里山に呼べるという選択肢が、徐々に増えたらいいなと思います。地元で土地を持っている人も、間伐をしたりその木を活用してくれる人が出てくるなら、お金をかけずに自分の山が整備できる。そういう循環を生むことで、個人の土地所有者も場所の提供をしていただけような動きになればいいですよね。

 たくさんの方々に猪名川の森をもっと楽しんでほしいですね。街の人にとっては里山が楽しく活用できることを知って、遊びに来てほしい。そこでまずは、こういう体験を知ってもらうイベントや取り組みを進めていきたいと思います。私たちが大切にしてきたのは、誰かが里山を整備して提供するのではなく、里山を利用する人が自分たちで整備して大切に使うことです。猪名川町はキャンプの町にならなくても、ハンモックの町みたいになってもいいなと思います。
 
 

【地域プロジェクト】一般社団法人DOORインタビュー

山の駅は21年目


――猪名川町に来られたきっかけはどういったものだったんですか?

車:大学を卒業してから、トライアスロンの選手として猪名川町で半年くらい旅館生活をしていました。そのあと川西市に住み結婚して猪名川町へ移住してきました。トライアスロンの選手を7年間やったんですが、最後は怪我をしてやめてそこから少し時間ができました。今は「山の駅」というカフェとマウンテンバイクのお店をやっています。このお店は、当時近くに新しく道ができて、農地転用で土地が空いていたので、建物を建てて最初にカフェを開業しました。でもまだバイパスも無い頃なので誰も来ない(笑)。そこで空いた時間に猪名川でマウンテンバイクなどを始めました。マウンテンバイクは山を活用するスポーツなので、猪名川町でやるにはぴったりでした。私自身が生まれ育った関東には山が少なく、高尾山とか筑波山などの一部の山にはハイキング道や登山道があるんですが、利用者が集中します。しかし関西の山は六甲に生駒や箕面など、それ以外の場所でも山がとても多い。マウンテンバイクを乗るのにとても良かったんです。

 私は30年前に猪名川町へ来たんですが、当時は山の道には人が入らなくなっていたので、笹が生え倒木があったりして、かすかに残っていた程度でした。そこで25年前に、猪名川町内の山を所持していた会社に相談を持ちかけて、木を切らせてもらう許可をいただいて、整備したんです。それが活動の始まりでした。最初はチェンソーもないので手動のノコギリで、地図を見ながら自分の走りたいコースをイメージしながら道を整備して、そうこうしているうちに一緒に走りたい人が手伝ってくれるようになり、「チーム山の駅」が生まれていきました。

 道を整備しながら、仲間とマウンテンバイク、トレイルバイク、トレイルランをやるようになって、そうしていると猪名川町の山は、活用できる良いフィールドだと実感するんですよね。それでますますのめり込むようになりました。周りからすると、ノコギリを担いで走って蜘蛛の巣だらけで帰ってきて、不思議だったと思います(笑)。猪名川町、能勢町、三田市、宝塚市の山はほとんど走りました。山道も覚えています。
 
 

「チーム山の駅」は20年間で540人に


――トレイルランの大会も主催されてますよね?

車:各地でトレイルランの大会が少しずつ増えブームがきたので、猪名川町でも10年前から始めました。でも最初はそんなに本格的なものではなく、猪名川町を南部中部など4分割にして地域の活性化、観光資源の発掘などを考え、ただ走るのではなく歴史の名所やおいしいお店を回れるイベントとして企画したんです。そしてそこから、いつか本格的なトレイルランの大会を猪名川町で開催したいと思うようになり、山のルートを考え2回ほど主催しました。2015年には猪名川町政60周年事業のお話が舞い込んできて、第1回「猪名川里山猪道トレイルラン」を開催しました。この時は開催まで時間がなくて、週に2日はチェンソーで木を切り、道を整備し3か月で準備を行ないました。どれくらい参加者が来てくれるか心配でしたが、当日は250人近くの人たちが来てくれてホッとしました。
 
 

【地域プロジェクト】一般社団法人DOORインタビュー

猪名川町をアウトドアスポーツの町にしよう


――これから猪名川町をどんな町にしていきたいですか?

車:アウトドアスポーツは基本的には設備が少なく、どこでもできるスポーツが多いです。大阪市内で仕事をする人たちのランニングのコミュニティは大阪市内になり、街中のランドマークを中心に開催されています。でも猪名川町であれば、一庫ダムは公園があり整備されている。空気もいいし信号もない。練習場にとても適しています。そこでランナーのコミュニティを作ろうと「一庫ダムランニングクラブ」というのも13年前に始めました。現在メンバーは200人。朝5:00のスタートに40人くらい集まり、メンバーに運営もまかせるようになりました。

 このコミュニティには大きなルールはなく、自分も楽しみながらみんなも楽しんでもらうための、それぞれが働きかける人たちの集まりになっています。トレイルランで走ったら、次の人が走りやすいように掃除や整備もする。何か道に障害があればどけて、ごみを見つけたらなるべく持って帰る。そんな風に、自分たちが使ったあと他の人も同じように気持ちよく使えるようにしておくことが自然にできるようなメンバーが集まっています。山の整備をする時に着るTシャツの売上も整備道具を購入する費用に充てるなどしています。

 あと山の情報共有ができるように、チームメンバー限定のフェイスブックページを作り、メンバーから山に入ったタイミングでの書き込みをしたり、「障害物を除去しておきました」という報告などもしています。こういった情報共有は、安全確認や山を一緒に整備しているという共通認識が持てるので、仲間意識とそれを楽しんでいる書き込みが多くて、良い効果を生んでいると思います。

 今は山を利用する人が増えてきたので、「譲り合って楽しむ」ということが大切だと思っています。山では登りの人を優先させるというルールがありますが、早く登りたくない人は降りてくる人に道を譲った方がいい。オートバイの人には「ここみんなで整備していて、黒土なのでオートバイは禁止にしているんです」と話しかければ、穏便に話が進んでいきます。そういう自分たちで自主規制をしあっていく姿勢がとても大切だと思います。
 
 

これからは山が“誰もが活用しやすい場所”になること


――今まではそういう「山でスポーツをする」ということがメインだったと思いますが、これからはそれだけにとどまらない里山の遊び方もこれからは広めていきたいとお考えですか?

車:そうですね。やはりトレイルランなどは、少し尖った人たちのスポーツです。最近はグランピングなどのアウトドアブームもありますが、これから里山を活用するなら、里山の麓で遊ぶ人、中腹でコーヒーを楽しむ人や、さらにその奥でスポーツを楽しむ人など、それぞれの楽しみ方に合ったエリアを分け、楽しみ方に合わせた場所の整備を行えば、新しい活性化になるのではないかと考えています。あと10年もすれば親の世代は動けなくなってしまう。そうなった時に「誰もが活用しやすい」場所にしておけば、たくさんの人たちが山に関わっていけるようになると考えています。

 猪名川町に引っ越して来られた方々の移住の理由には、土いじりをしたい、暖炉の火を見たいというような、人間の本能に従って生きていきたいということをよく聞きます。今は火をつけるにしても着火剤がないできないという人も多い。そうした人たちが山と関わることで、本来の人間の姿を感じられるといいなと思います。

 私にとって山はとても落ち着く存在です。もっといろんな人が山に入ってきてほしい。ですが、いきなり山に人がたくさん入るとトラブルも生まれてしまいます。それを防ぐためにはルールやマナーについて周知することが必要だと考えています。実は猪名川のフィールドには、まだ案内板も地図も作っていません。だから未経験のお客さんは、まずお店に来てくれるんです。そこで経験のある人間が丁寧に説明するようにしています。これは効率の良い方法ではないですが、こうやって関係性を作ることでトラブルを防ぐことができると考えています。これからも時間をかけながらじっくりと関わってくれる人の輪を広げていきたいと思います。
 
 
 
 

【地域プロジェクト】一般社団法人DOORインタビュー

車宏(くるま・ひろし)
茨城県水戸市出身、大学時代にはじめたトライアスロンに出会い、活動。大学卒業後はプロのトライアスロン選手として練習環境を求め猪名川へ。引退後は地元でカフェ山の駅経営するかたわらマウンテンバイクやトレイルランで猪名川町をはじめ宝塚、川西、能勢の山を走りつくす。5年前より大島町づくり協議会と協力していながわ里山猪道トレイルラン大会を開催するなど山を使ったイベントを手掛けている。
 
 
●チーム山の駅 https://www.yamanoeki.net/
●いながわの森活用プロジェクト http://noseden-artline.com/2019/event/noseden-289/
 
 
 

インタビュー日・2019/10/03
インタビュアー・前田展広
文・前田展広/田中郁后

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